古事記伝(こじきでん、ふることふみのつたえ)は、江戸時代の国学者・本居宣長によって書かれた『古事記』全編にわたる全44巻の註釈書です。
医学の修行のために上洛していた宣長は、1756年(宝暦6年)、27歳の時に店頭で『先代旧事本紀』と『古事記』を購入しました。この頃、宣長は『日本書紀』を読んでいて、賀茂真淵の『冠辞考』に出会って日本の古道を学び始めていた時期です。
宣長が本格的に『古事記』研究に進むことを決意したのは、それから数年後の1763年(宝暦13年)に、私淑する真淵と「松坂の一夜」で初めて直接教えを受けたことがきっかけとなりました。その翌1764年(宝暦14年)から『古事記伝』を起筆。その間に他の執筆もこなしながら、1798年(寛政10年)まで35年かけて完成させました。
宣長の『古事記伝』は、近世における古事記研究の頂点をなし、近代的な意味での実証主義的かつ文献学的な研究としても評価されています。宣長は『古事記』の註釈をする中で古代人の生き方や考え方の中に連綿と流れる一貫した精神性、即ち「道」の存在に気付き、この「道」を指し示すことにより日本の神代を尊ぶ国学として確立させたのでした。