『読史余論』(とくしよろん)は、江戸時代の学者・政治家である新井白石が著した、日本政治史の歴史書、史論です。日本古来の治乱興亡の沿革に深い関心を寄せていた6代将軍・家宣のために書きました。
『読史余論』は3巻から構成されていて、第1巻の最初に総論を置き、日本における「天下の大勢」が藤原政権成立後、「九変」して武家の時代となり、さらに「五変」して徳川政権の成立を見たという全体の構想、すなわち「天下九変五変説」を述べています。摂関政治の開始を境界線とし、「上古」とそれ以後の時代に区分する方法は『神皇正統記』を援用したと考えられています。
白石は歴史の発展を「大勢」と考え、体制転換を「変」と表現しました。この変をうながす原動力として徳・不徳という儒教観念を用いて、政治実権が天皇から摂関家・上皇・源氏・北条氏へと移っていった経緯を述べます。白石は中世日本の政治史を、公家勢力と武家勢力の対立ととらえ、その上に儀礼的存在として天皇があるものと考えたのでした。
一方、「大勢」の変化といっても少数の支配層や個人の動向に視点が集中しているという批判(福澤諭吉の批判)や徳川幕府を正当化するために人物評価が偏っていたり矛盾していたりするという批判などがありますが、日本史に納得できる時代区分を最初に導入し、政治史を書くことを可能とした功績ある書物と評価できるでしょう。