似絵(にせえ)は、鎌倉時代から南北朝時代にかけて流行した大和絵系の肖像画を指す絵画用語です。人物や牛馬の容貌を像主に似せて描いたもので、写実性・記録性が強いです。特色としては、細い淡墨線を引き重ねて目鼻だちを整え、対象となる人物の特徴を捉えようとする技法を用いられています。
文中で敢えて「俗人の肖像をえがく似絵」と記載されていますが、これの背景を説明します。
平安時代以前には、一般に自身の容貌があからさまに描かれることが憚れる傾向がありました。どうしてかというと、自分が生きているのに、自分に似ているものがあるというのは、それを使って「呪詛」に使われることを恐れていたという説があります。今でも、たとえば、写真を撮られれば、それを使ってSNSに流出させられるのを嫌がるというか、いやなので、知らない人に自分の写真を撮られるのは嫌ですよね?そんな感覚だと思ってください。
一方、「俗人」ではない「高僧」の肖像画や、あるいは鑑真像などは写実性高いものが残っています(鑑真像は死後ですけども)。これは、その高僧のパワーにあやかりたい人々の需要と、高僧は徳が高いので、呪詛を跳ね除けるパワーがあったからと言えるでしょう。なので、「世俗人物の肖像は稀」であり、あったとしても「尊崇のために理想化させて描く」といった形で、「似せ」というか「偽(にせ)」になっちゃっていたんですね。
これが平安末期になると、状況が変わっていきました。どうしてかといわれるとなかなか難しいですが、写実性の高い、人間賛歌の時代潮流によるものなのでしょうかね。